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横浜地方裁判所 昭和31年(ワ)22号 判決

原告 佐橋正義 外三名

被告 小野和子 外二名

主文

被告小野和子は原告等に対し別紙目録〈省略〉記載第二の建物を収去し同目録記載第一の土地を明渡せ。

被告小野きくよは原告等に対し別紙目録記載第三の建物を収去して同目録記載第一の土地を明渡せ。

被告小野正則は原告等に対し別紙目録記載第二、第三の建物より退去して別紙目録記載第一の土地を明渡し、且つ各原告に対し金一万二千三百八十円を支払え。

被告小野和子、同小野きくよは各自各原告に対し昭和三十年十月二十七日以降別紙目録記載第一の土地の明渡済に至るまで一ケ月金三百六十五円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、第一次的請求として主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、原告等は別紙目録第一の土地(以下本件土地と略称する。)を含む横浜市中区末吉町三丁目六十七番地の一、宅地百十七坪一合二勺の平等の持分を有する共有権者である。

二、しかして被告小野正則は、訴外萩野鉄五郎が原告等の前主佐橋勝から賃借した前記宅地のうち本件土地を含む百坪二合九勺の地上に建築した建物七戸のうち本件土地上の一戸を賃借していたところ、右建物は昭和二十年五月二十九日の戦災により焼失したが、同被告はまもなく同所に復帰し本件土地の占有を継続してきた。

三、その後被告小野正則は昭和二十三年八月七日頃罹災都市借地借家臨時処理法第二条第一項にもとづき、同被告が従前居住していた建物の敷地である本件土地の賃借方を申し入れたのに対し原告等において何らの回答をしなかつたため、原告等と同被告の間に本件土地につき賃貸借契約が成立するに至つたものであるが、その借地条件については昭和三十年八月三十日、当庁昭和二九年(シ)第三号借地条件確定申立事件において、昭和二十一年九月十五日以降の賃料を一坪当り、

(一)  昭和二十一年九月十五日以降昭和二十三年十月十日までは金一円五十銭

(二)  昭和二十三年十月十一日以降昭和二十四年五月三十日までは金二円八十二銭

(三)  昭和二十四年五月三十一日以降昭和二十五年七月三十日までは金七円四十七銭

(四)  昭和二十五年七月三十一日以降昭和二十六年九月三十日までは金十八円五十四銭

(五)  昭和二十六年十月一日以降昭和二十七年十二月三日までは金二十円八銭

(六)  昭和二十七年十二月四日以降昭和二十八年十二月三十一日までは金六十円

(七)  昭和二十九年一月一日以降昭和二十九年十二月三十一日までは金八十円

(八)  昭和三十年一月一日以降が金百円

とする旨の決定があつた。

四、そこで原告等は、昭和三十年十月十九日書留内容証明郵便により、被告小野正則に対し前記決定に基いて算定した昭和二十一年九月十五日以降昭和三十年九月三十日までの賃料合計金四万八千二百五十五円を右書面到達後七日以内に支払うよう催告し、併せてもし右期間内に支払わないときは賃貸借契約を解除する旨の条件付賃貸借契約解除の意思表示を発し、右書面は昭和三十年十月十九日被告小野正則に到達したが、同被告は右期間内に前記金員の支払をしなかつたので前記賃貸借契約は昭和三十年十月二十六日限り解除された。

五、しかるに、現在本件土地上に被告小野和子は別紙目録記載第二の建物を、被告小野きくよは別紙目録記載第三の建物をそれぞれ所有し、被告小野正則は右各建物に居住してそれぞれ本件土地を占有している。

六、そうすると被告等は昭和三十年十月二十六日限り原告等に対抗しうる何等の権原を有しないのに拘わらず本件土地を占有し、被告小野和子、同小野きくよは原告等の本件土地の所有権を侵害し原告等に対し賃料相当額の損害を与えているものであるから、原告等は被告小野和子に対しては別紙目録記載第二の建物を収去して、被告小野きくよに対しては別紙目録記載第三の建物を収去して、被告小野正則に対しては右各建物から退去してそれぞれ本件土地の明渡しをなすことを求めるとともに、被告小野和子、同小野きくよに対しては、昭和三十年十月二十七日以降本件土地明渡済に至るまで一ケ月金千四百六十二円の割合による賃料相当の損害金を、原告等の本件土地の持分に応じて各自各原告に対し一ケ月金三百六十五円(円未満切り捨て)の割合による金員の支払をなすべきことを、被告小野正則に対しては昭和二十一年九月十五日以降昭和三十年十月二十六日までの延滞賃料合計金四万九千五百二十二円を、原告等の本件土地の持分に応じて各原告に対し金一万二千三百八十円(円未満切り捨て)の支払をなすべきことを求めるため、本訴請求に及んだ。」とのべ、

被告の主張に対する答弁ならびに仮定的主張として

「一、原告等と被告小野正則との間に賃貸借が成立した土地の範囲が二十四坪であるとの主張は争う。仮りに被告主張の通りであるとすれば、被告小野正則は原告等の承諾を得ないで、右二十四坪の内北西側の約十坪の上に存する被告小野正則所有の家屋番号同町二百四十六番、木造亜鉛葺二階建店舗兼住宅建坪五坪五合外二階五坪五合の建物を昭和二十三年八月一日頃訴外横山ユキに売り渡すとともに、その敷地の賃借権を譲渡したものであるから、これを理由として本訴において(昭和三十一年十月三十一日午前十時の口頭弁論期日)原告等と被告小野正則間の本件土地の賃貸借契約を解除する。

二、被告主張の賃料提供および供託に関する事実ならびに横浜地方裁判所の決定に対する不服申立に関する各事実については、右事実中、被告等主張通りの供託がなされたこと、横浜地方裁判所の決定に対し被告等主張通りそれぞれ抗告および決定があつたことは認めるが、その余は否認する。即ち、

被告小野正則は本件土地の賃料支払時期は昭和三十一年五月二十一日であると主張するが、その支払時期は前記延滞賃料支払の催告中に定められた期間の末日である昭和三十年十月二十六日である。仮りに右賃料の弁済期が被告等主張のように借地条件確定申立事件の決定が確定するまでの間は到来しないものであるとしても、右決定は昭和三十一年五月二十一日確定し、原告等のなした前記賃料催告の瑕疵も結局治癒されたものであるのに拘わらず、被告小野正則は右決定の確定した日の翌日から七日以内に滞納賃料額を支払わないから、原告等と同被告間の本件土地賃貸借契約は昭和三十一年五月二十八日限り解除されたものである。

又被告小野正則が昭和三十年十月二十五日金二万八百八十円を供託するに先立ち、賃料債務弁済の提供をしようとしたとしても、それは本件土地の外罹災当時青木晋次が居住使用していた家屋の敷地の一部にして現在被告小野正則が不法占有中の九坪三合八勺の土地を含む二十四坪が本件賃貸借の目的物になつていると主張し、これをもとにして賃料を計算し、しかも前記決定で定められた賃料額をはるかに下廻る額の賃料をもつてなされたものであるから、原告等としてはこれを受領すれば、被告小野正則の主張を承認したものと看做されるおそれがあつたためこれを受領しなかつたものであり、その弁済の提供は債務の本旨に従つたものとは云えない。

三、仮りに原告等のこれまでの主張はいずれもその理由がないとしても、被告小野正則は原告等の承諾を得ないで当時被告小野きくよ名義であつた別紙目録記載第二の建物を昭和二十八年五月六日被告小野和子に売り渡すとともにその敷地の賃借権を譲渡したものであるから、本訴において(昭和三十一年十月三十一日午前十時の口頭弁論期日)被告小野正則との間の本件土地の賃貸借契約を解除する。

四、尚原告と被告小野正則間の本件土地の賃貸借契約は罹災都市借地借家臨時処理法第二条の規定により設定されたものであつてその存続期間は同法第五条により十年であるから昭和三十三年八月二十八日の経過をもつて期間満了により消滅したものである。

五、したがつていずれの点からするも原告等と被告小野正則との間の賃貸借契約は既に解除となつたものであるから、被告等は本件土地を占有するにつき原告等に対抗しうる何等の権原を有しないものといわなければならない。」とのべ、

予備的請求として、「被告小野正則は原告等に対し、別紙目録記載第二、第三の建物を収去した上別紙目録記載第一の土地を明渡し、且つ各原告に対し金一万二千三百八十円ならびに昭和三十年十月二十七日以降別紙目録記載第一の土地の明渡済に至るまで一ケ月金三百六十五円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「仮りに別紙目録記載の建物がいずれも被告小野正則の所有であるとすれば、原告等は前記の如き事由により本件土地の賃貸借契約を解除したものであるのに拘わらず、同被告は不法に本件土地を占有するものであるから、同被告に対し別紙目録記載第二、第三の建物を収去して本件土地の明渡を求めるとともに、昭和二十一年九月十五日以降昭和三十年十月二十六日までの延滞賃料金四万九千五百二十二円ならびに昭和三十年十月二十七日以降本件土地明渡済に至るまでの一ケ月金一千四百六十二円の割合による損害金につき原告等の持分に応じて各原告に対し金一万二千三百八十円の延滞賃料ならびに昭和三十年十月二十七日以降本件土地明渡済に至るまで一ケ月金三百六十五円の割合による損害金の支払を求める。」とのべた。〈立証省略〉

被告等は、「原告等の各請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁ならびに主張として、

「一、請求原因第一項記載の事実は原告等が平等の持分を有するとの点を除きその余は認める。

二、請求原因第二項記載の事実は全部認める。

三、請求原因第三項記載の事実は、被告小野正則が罹災都市借地借家臨時処理法第二条第一項にもとづき、昭和二十三年八月七日土地の賃借方を申し入れたこと、これに対し原告等は何ら回答しなかつたこと、横浜地方裁判所昭和二九年(シ)第三号借地条件確定申立事件において原告等主張通りの決定がなされたことは認めるが、その余は否認する。即ち、被告小野正則は、昭和二十年九月頃、横浜市中区末吉町六十七番地の一、宅地百十七坪一合二勺の土地の事実上の所有者たる原告等の祖父佐橋鉄治郎に対し、右土地のうち二十四坪の賃借方を申し入れたところ、右同人はこれを承諾したものであるから、これによつて原告等と被告小野正則間に本件土地を含む二十四坪の範囲につき土地賃貸借契約が成立するに至つたものである。

四、請求原因第四項記載の事実は全部否認する。即ち、

被告小野正則は前記横浜地方裁判所の決定に対しては、これを不服として即時抗告をなし、東京高等裁判所において抗告棄却の決定を受けたが、更に特別抗告をなし昭和三十一年五月十八日最高裁判所で抗告却下の決定をうけ、右決定正本は同月二十一日同被告に送達されたものである。したがつて本件土地の賃料支払時期は昭和三十一年五月二十一日であるところ、被告小野正則は直ちに昭和二十一年九月十五日以降昭和三十一年四月分までの賃料合計金五万八千四百八十九円のうち、金三万六千百十円は既に供託済となつていたから、残金二万二千三百七十二円を原告等方に持参し弁済の提供をしようとしたけれども、原告等はその祖父佐橋鉄治郎方に持参されたい旨申出たので、再度同人方に赴いたが、同人が不在のため、やむなく昭和三十一年五月二十五日債務弁済のため右金二万二千三百七十二円を供託し債務を免れたものである。

仮りに被告小野正則に原告等の催告通り昭和三十年十月二十六日までに本件土地の賃料を支払うべき義務があるとしても、同被告は原告等主張の催告に応じ、まもなくその請求金額を原告等に持参提供しようとしたところ、原告等はその祖父佐橋鉄治郎方に持参されたい旨申し出て受領を拒んだので佐橋鉄治郎方に赴いたところ、同人は不在のため昭和三十年十月二十五日原告等代理人弁護士浅沢直人の事務所を訪れたが、同弁護士も又不在のためやむなく同日債務弁済のため金二万八百八十円を供託し被告小野正則は賃料債務を免れたものであるから、原告等のなした賃貸借契約解除の意思表示は停止条件が成就していない。

したがつて、いずれの点からするも原告等の賃貸借契約解除の意思表示は効力が生じていない。

五、請求原因第五項記載の事実は、原告等主張通り、被告小野和子、同小野きくよ所有名義の別紙目録記載第二、第三の各建物が存することは認めるが、右各被告は右各建物の名義上の所有者たるにとどまり、実質上はいずれも被告小野正則の所有に属するものである。

六、請求原因第六項の主張は争う。」とのべ

原告等の仮定的主張に対し

「一、その主張中第一項記載の被告小野正則が訴外横山ユキに対し原告等主張の建物を売り渡しその敷地の賃借権を譲渡したとの事実は否認する。仮りに訴外横山ユキに対し原告等主張の建物ならびにその敷地賃借権を譲渡したとしても、その余の本件土地の賃貸借契約の解除事由とはなりえない。

二、その主張中第三項記載の被告小野正則が被告小野きくよ名義であつた別紙目録第二記載の建物を昭和二十八年五月六日登記簿上被告小野和子の所有名義にしたことは認める。しかしながら被告小野きくよは被告小野正則の妻であり、被告小野和子は被告小野正則の養女であるから、このような身分関係からして原告等の承諾を得なくても賃貸借契約の解除事由とはなりえないものである。」とのべた。〈立証省略〉

理由

一、原告等が本件土地を含む横浜市中区末吉町三丁目六十七番地の一、宅地百十七坪一合二勺の共有者であること、被告小野正則が訴外萩野鉄五郎において原告等の前主佐橋勝から賃借した前記宅地のうち本件土地を含む百坪二合九勺の土地上に建築した七戸の建物のうちの一戸を右萩野鉄五郎より賃借していたこと、被告小野正則が賃借していた右建物は昭和二十年五月二十九日戦災により焼失したが同被告はまもなく同所に復帰し本件土地の占有を継続してきたこと、被告小野正則は昭和二十三年八月七日罹災都市借地借家臨時処理法第二条第一項にもとづき原告等に土地の賃借方を申し入れたのに対し原告等において何等の回答をしなかつたこと、その後横浜地方裁判所昭和二九年(シ)第三号借地条件確定申立事件において昭和三十年八月三十日原告等主張の如き決定があつたことはいずれも当事者間に争のないところであり、反証のない限り原告等の共有持分は平等であると推定すべきである。

二、そこで原告等と被告小野正則間に土地賃貸借契約が成立した時期およびその土地の範囲について考察する。

被告等は、昭和二十年九月当時、原告等の祖父佐橋鉄治郎が前記原告等の共有土地のうち二十四坪を被告小野正則に賃貸した旨主張するが、成立に争のない乙第十一号証、同第十三号証ないし第二十三号証はこれを肯認すべき資料たりえないのみならず、他に右主張を認定するに足る証拠がない。しかも成立に争のない乙第三号証の一、二によれば、被告小野正則の原告等に対する土地賃借申し入れの意思表示は昭和二十三年八月七日原告等に到着したものであること、証人瀬沼忠夫の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第十号証ならびに右証言の結果を綜合すれば、被告小野正則が訴外萩野鉄五郎から賃借していた当時の建物の敷地部分は本件土地である十四坪六合二勺であることがそれぞれ認められ、これに反する証拠はないから、右各事実ならびに原被告間に争のない前記認定事実とを綜合すれば、原告等と被告小野正則間の土地賃貸借契約は、罹災都市借地借家臨時処理法第二条第一項、同条第二項により、昭和二十三年八月二十八日の満了した時に成立したものであり、且つその土地の範囲は借主たる被告小野正則が罹災前賃借していた建物の敷地即ち本件土地十四坪六合二勺の範囲に限られるものというべきである。

三、しかして成立に争のない甲第二号証、同第三号証の一、二によれば、原告等は被告小野正則に対し昭和三十年十月十九日付書留内容証明郵便をもつて、昭和二十一年九月十五日以降昭和三十年九月末日までの延滞賃料として合計金四万八千二百五十五円の支払を求める旨の催告ならびに右書留内容証明郵便到達後七日以内に支払のないときは本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、該書面は同日同被告に送達されたこと、右催告にかかる金員は横浜地方裁判所昭和二九年(シ)第三号借地条件確定申立事件の決定にもとづいて計算した本件土地十四坪六合二勺の昭和二十一年九月十五日以降昭和三十年九月三十日までの賃料合計額の範囲内であることを認めるに充分であるが、被告小野正則は前記横浜地方裁判所の決定に対しこれを不服として即時抗告をなしたところ、東京高等裁判所において抗告棄却の決定を受けたので、更に特別抗告をなし昭和三十一年五月十八日最高裁判所で抗告却下の決定を受け、右決定正本を昭和三十一年五月二十一日受けとつたものであつて、右事実は当事者間に争のないところである。

そこで被告小野正則は、原告等主張の通り昭和三十年十月二十六日までに本件土地の賃料を支払うべき義務を負うに至つたものであるか、或いは被告等主張の通り最高裁判所の右抗告却下決定の正本送達を受けてはじめて賃料支払義務を負うに至つたものであるかについて考察する。

元来賃借人は賃貸借契約の成立と同時に賃貸人に対し賃料支払義務を負うているものであり、このことは罹災都市借地借家臨時処理法によつて設定された賃貸借契約において、いまだその条件につき当事者間に協議がととのつていない場合においても何等異るところはない。したがつて、本件においては、すでに判示したとおり、昭和二三年八月二九日本件賃借権が設定されたときから被告正則は賃料債務を負うていたものといわなければならない。そして罹災都市借地借家臨時処理法第十五条による決定は告知と同時に効力を生ずべきものであるから、これにより定められた賃貸借の条件は直ちに当事者を規律するに至るものであつて、即時抗告により右決定の確定および執行が停止された場合といえども、原決定が上訴により変更される可能性が殆んど考えられない場合には、賃借人は賃貸人からその決定によつて定められた賃料の支払を請求された以上、右請求に応じ賃料を支払うべき義務があるものというべく、このように解することこそ、継続的契約関係に立つ当事者間の衡平を保持し信義誠実の原則にしたがうゆえんであるといわなければならない。

しかして前顕甲第二号証によれば、前記横浜地方裁判所の決定はそれ自体極めて相当であつて右決定が上訴により変更される可能性は殆んどないものと認定することができ、現に右決定に対する即時抗告および特別抗告によつても変更されなかつたことは成立に争のない乙第六号証ないし同第八号証によつて明らかなところであり、且つ原告等が被告小野正則に対し昭和三十年十月二十六日までに支払うよう請求した昭和二十一年九月十五日以降昭和三十年九月三十日までの賃料合計金四万八千二百五十五円のうちには、昭和二十一年九月十五日以降昭和二十三年八月二十八日までの原告等と被告小野正則間に本件土地の賃貸借がいまだ成立していなかつた間の分も含まれているとは云え、前顕甲第三号証の一によれば、右期間に応ずる額は全体の催告額に比し極めて僅少であること(即ち右期間中の請求額が五百十四円-円未満切り捨て-であることは計数上明らかである。)、原告等は被告小野正則に対し右催告にあたり計算の基礎を明示していることが認められ、しかも被告小野正則が右期間中本件土地を占有していたことは当事者間に争のないところであるから被告小野正則としては原告等に対し右期間に応ずる金額を賃料相当額の損害金として支払うべき義務を負担していたものであること等に照らし、原告等の前記履行の催告は契約解除の前提たる催告として適法であり、したがつて、その不履行を停止条件とする賃貸借契約解除の意思表示もまた適法というべきであつて、被告小野正則において原告等の右催告にしたがわない以上、原告等と同被告間の本件土地の賃貸借契約は解除されるものといわなければならない。

四、そこで進んで右催告に対する被告小野正則の賃料提供について按ずるに、被告小野正則が昭和三十年十月二十五日金二万八百八十円を横浜地方法務局に供託したことは当事者間に争のないところであるが、前顕乙第十一号証によれば、同被告は右金員を横浜市中区末吉町三丁目六十七番地所在宅地二十四坪の昭和二十九年九月以降昭和三十年九月分までの賃料として一ケ月あたり昭和二十九年九月以降同年十二月分までは金一千四百四十円(坪当り六十円)、昭和三十年一月以降同年九月分までは金一千六百八十円(坪当り七十円)の計算をもつて供託したものであること、更に前顕乙第十三号証ないし第二十二号証によれば、同被告は昭和二十一年十月十日以降昭和二十九年九月六日までの間前後十回にわたり合計金八千三十七円五十二銭を昭和二十年六月分以降昭和二十九年八月分までの前記二十四坪の賃料として横浜地方法務局に供託したこと、したがつて原告等が催告した支払時期たる昭和三十年十月二十六日までには合計金二万八千九百十七円五十二銭を供託したことをそれぞれ認めることができるが、昭和二十九年八月以前の賃料の供託についてはその前提として適法な弁済の提供がなされたことの主張立証がなく、又同年九月分以降昭和三十年九月までの分については証人市原令宣、同君島松治の各証言ならびに弁論の全趣旨により、同被告において原告等に対し賃料を提供しようとしたところ、原告等からその受領を拒絶されるに至つたため前示供託をしたことが認められるとは云え、前示供託の事実および弁論の全趣旨に徴すると、同被告は右弁済の提供にあたり、自己の賃借土地を二十四坪とし、且つその賃料額についても独自の見解にもとづき催告額より少ない額の金員を適正賃料として支払うため提供しようとしたものである事実が認められるから、原告等の催告にしたがつた債務の本旨にそう弁済の提供とは認め難く、したがつてまた被告小野正則のなした前示供託も無効であるといわなければならない。

五、そうだとすれば、原告等と被告小野正則間の本件土地の賃貸借契約は、前記書留内容証明郵便に定められた七日間を経過した昭和三十年十月二十六日限り解除されたものというべきである。

六、そして、本件土地上には被告小野和子所有名義の別紙目録記載第二の建物および被告小野きくよ所有名義の別紙目録記載第三の建物がそれぞれ存することは当事者間に争のないところであるから、反証のない限り被告小野和子、同小野きくよはいずれも右各建物の所有者と推定すべきであり、且つ被告小野正則が右各建物に居住している事実については、同被告において明らかに争わないところであるから自白したものと看做す。

七、以上説示したところからすれば、被告小野和子、同小野きくよは原告等に対抗しうる何等の権原がないのに本件土地上に別紙目録記載第二、第三の建物をそれぞれ所有し、被告小野正則は右各建物に居住して、いずれも本件土地を不法に占有し、又被告小野和子、同小野きくよは右占有により原告等の本件土地の所有権を侵害し、昭和三十年十月二十七日以降原告等に対し賃料相当の損害を与えているものであるから、被告小野和子は別紙目録記載第二の建物を、被告小野きくよは別紙目録記載第三の建物をそれぞれ収去して、被告小野正則は右各建物より退去してそれぞれ原告等に対し本件土地の明渡しをなすべき義務があるとともに、被告小野和子、同小野きくよは各自昭和三十年十月二十七日以降本件土地明渡済に至るまで一ケ月金千四百六十二円の割合による賃料相当額の損害金を、原告等の本件土地の持分に応じて各原告に対し一ケ月金三百六十五円(円未満切り捨て)の割合による金員の支払をなすべき義務があり、被告小野正則は昭和二十一年九月十五日以降昭和二十三年八月二十八日までの賃料相当の損害金および昭和二十三年八月二十九日以降昭和三十年十月二十六日までの延滞賃料合計金四万九千五百二十二円(原告等請求の右金員が横浜地方裁判所の前記決定に基づいて計算した賃料相当額ならびに賃料額の範囲内であることは前顕甲第二号証に照らし計数上明らかである。)を、原告等の本件土地の持分に応じて各原告に対し金一万二千三百八十円(円未満切り捨て)の支払をなすべき義務があるものというべきである。

八、よつて、原告等の第一次的請求は爾余の主張につき判断するまでもなく、全部正当としてこれを認容すべきものであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないと認めてこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 久利馨 若尾元 高木典雄)

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